日本は石油のほとんどを輸入しています。それも大部分が中東地域の石油に依存しています。
中東地域で政情が不安定になった場合など、石油が輸入できなくなると私たちの生活に大きな影響が及びます。
石油の輸入が一時的にでもストップしてしまう場合に備えて国などが石油を備蓄しているのです。
この記事では、石油備蓄の概要や現況、なぜ必要なのかなど日本の石油備蓄についてまとめています。
石油備蓄の種類
日本の石油備蓄事業は、
国の直轄事業として実施している国家備蓄、
民間石油会社等が法律により義務付けられて実施している民間備蓄、
産油国と連携して行っている産油国共同備蓄
の3つの方式で進められています。
国家備蓄
国家備蓄は、国が建設した全国10ヵ所の国家石油備蓄基地と民間石油会社等から借上げたタンクにの原油および石油製品が貯蔵されています。
国の税収を原資として、国が直接、あるいは備蓄機関を通じて備蓄基地及び備蓄石油を保有しています。
民間備蓄
民間備蓄は、一定量以上の石油の生産、販売、輸入の事業を営む民間石油会社等が石油流通の施設に在庫を多めに持つ方式で、原油と石油製品を石油タンクなどに備蓄し、随時入れ替えを行っています。
産油国共同備蓄
産油国共同備蓄は、政府の支援の下、日本国内の民間原油タンクを産油国の国営石油会社に貸与し、平時は産油国の国営石油会社が東アジア向けの中継・備蓄基地として利用してもらい、日本への原油供給不足が懸念される際は、その原油タンクの在庫を国内向けに優先供給するものです。
石油備蓄の現況
石油備蓄の現況は、経済産業省資源エネルギー庁ホームページ( 統計・各種データ> 石油・LPガス関連> 石油備蓄の現況)に統計表として毎月掲載されます。
【備蓄日数】 | 【製品換算】 | 【保有量】 | |
国家備蓄 | 145日分 133日分<IEA基準> | 4,461万kl (≒2.8億バレル) | 原油 4,545万kl (≒2.9億バレル) 製品 143万kl (≒0.09億バレル) |
民間備蓄 | 90日分 85日分<IEA基準> | 2,773万kl (≒1.7億バレル) | 原油 1,142万kl (≒0.7億バレル) 製品 1,688万kl (≒1.1億バレル) |
産油国共同備蓄 | 6日分 6日分<IEA基準> | 191万kl (≒0.12億バレル) | 原油 201万kl (≒0.13億バレル) |
合 計 | 242日分 224日分<IEA基準> | 7,425万kl (≒4.7億バレル) | 合計 7,719万kl (≒4.9億バレル) |
石油備蓄の現況は、経済産業省資源エネルギー庁ホームページ( 統計・各種データ> 石油・LPガス関連> 石油備蓄の現況)に統計表として毎月掲載されます。
石油備蓄基地一覧
国家石油備蓄基地
苫小牧東部国家石油備蓄基地 | 所在地及び面積 北海道苫小牧市及び厚真町(約274ha) 備蓄方式 地上タンク方式 完成年等 1984年8月末一部完成、同9月オイルイン開始 1990年11月末全面完成、1991年1月オイルイン終了 | 備蓄施設容量 約640万kl |
むつ小川原国家石油備蓄基地 | 所在地及び面積 青森県上北郡六ヶ所村(269ha) 備蓄方式 地上タンク方式 完成年等 1983年8月末一部完成、同9月オイルイン開始 1985年9月末全面完成、同12月オイルイン終了 | 約570万kl |
久慈国家石油備蓄基地 | 所在地 岩手県久慈市 用地面積 地上施設地区6ha 貯油施設地区26ha 完成年等 1993年9月全面完成、1994年2月オイルイン終了 | 約175万kl |
秋田国家石油備蓄基地 | 所在地及び面積 秋田県男鹿市船川(約110ha) 備蓄方式 地中タンク・地上タンク方式 完成年等 1989年10月末一部完成、同11月オイルイン開始 1995年6月末全面完成、同8月オイルイン終了 | 約450万kl |
福井国家石油備蓄基地 | 所在地及び面積 福井県福井市及び坂井市(約150ha:45万坪) 備蓄方式 地上タンク方式 完成年等 1986年5月末一部完成、同6月オイルイン開始 1986年7月末全面完成、同9月オイルイン終了 | 約340万kl |
菊間国家石油備蓄基地 | 所在地 愛媛県今治市菊間町 用地面積 地上施設地区10ha 貯油施設地区15ha 完成年等 1994年3月全面完成 1995年2月オイルイン終了 | 約150万kl (地下岩盤備蓄タンク:3ユニット(136.4万kl) 陸上シフトタンク:13.6万kl) |
白島国家石油備蓄基地 | 所在地及び面積 福岡県北九州市若松区白島海域 陸域:約14ha 海域:約60ha 備蓄方式 洋上タンク方式 完成年等 1996年8月全面完成、1997年10月オイルイン終了 | 約560万kl(約70万kl×8隻) |
上五島国家石油備蓄基地 | 所在地及び面積長崎県南松浦郡新上五島町海域 陸域:約26ha 海域:約40ha備蓄方式洋上タンク方式 完成年等1988年9月末全面完成、1989年1月オイルイン終了 | 約440万kl(約88万kl×5隻) |
志布志国家石油備蓄基地 | 所在地及び面積 鹿児島肝属郡東串良町及び肝付町の地先(約196ha) 備蓄方式 地上タンク方式 完成年等 1992年8月末一部完成、同9月オイルイン開始 1993年12月全面完成、1994年2月オイルイン終了 | 約500万kl |
串木野国家石油備蓄基地 | 所在地 鹿児島県いちき串木野市 用地面積 地上施設地区5ha 貯油施設地区26ha 完成年等 1992年12月末一部完成 1993年1月オイルイン開始 1994年5月全面完成 同11月オイルイン終了 | 約175万kl |
民間備蓄施設
北海道石油共同備蓄基地 | 北海道苫小牧市、厚真町 1982年備蓄開始 | 350万kL |
新潟石油共同備蓄基地 | 新潟県聖籠町 | 113万kL |
三菱商事・小名浜 | 福島県小名浜 | 150万KL |
富士石油・袖ヶ浦 | 千葉県袖ヶ浦市 | |
西部石油・山口 | 山口県山陽小野田市 | 270万KL |
ENEOS喜入基地 | 鹿児島県鹿児島市喜入 | 750万kL |
沖縄石油基地【産油国共同備蓄】 | 沖縄県うるま市平安座島 | 450万kL |
沖縄ターミナル | 沖縄県うるま市平安座島 | 175万kL |
石油備蓄はなぜ?石油備蓄のきっかけは
日本は石油のおよそ99%を輸入に頼っています。
そのうちおよそ85%が中東地域からの輸入です。
歴史的に宗教上の対立があり不安定な地域ではあるのですが、そんな中東で政情が不安定になった場合、石油の輸入できなくなる可能性があります。
石油が輸入できないと国民生活に大きな影響が及ぶので、万が一に備えて日本国内に石油を備蓄する必要があるということです。
現在の石油備蓄の仕組みができあがったのは1973年(昭和48年)に起きた第1次オイルショックがきっかけです。
1975年(昭和50年)に「石油備蓄法」が制定され、万が一に備えた備蓄が始まりました。
第一次オイルショック
1973年(昭和48年)10月、第4次中東戦争(イスラエルとエジプト・シリアをはじめとするアラブ諸国との間で行われた4度目の戦争)が勃発します。
OPECが原油の供給制限と石油価格の引き上げを行ったことで、石油の国際価格は3か月間でおよそ4倍に跳ね上がりました。
オイルショックによる原油価格の値上がりは当然ガソリンなどの石油関連製品の値上げにもつながりました。
そして日本国内は、物価が瞬く間に上昇、のちに「狂乱物価」といわれるようなインフレが発生ました。
急激なインフレはそれまで旺盛だった経済活動にブレーキをかけることになりました。
1973年10月中旬ごろ、当時の中曽根通産大臣がテレビ番組内で「紙の節約」を呼びかけたことがきっかけとなり、10月下旬にかけて「紙が無くなるらしい」という噂が全国に広まったといわれています。
そして11月、大阪市内のスーパーで発生したトイレットペーパー買い占め騒ぎが報道された、そのことを契機に、洗剤、砂糖、塩、しょう油までもが日本中の小売店の店頭から消えることになりました。
石油備蓄法とは
第一次オイルショックの経験を通じて、輸入がストップしてしまうなど石油の供給が不足する緊急事態が生じた時に、石油の安定的な供給を確保するためには、石油備蓄の抜本的増強を図ることが必要であると強く認識され、1975 年(昭和 50 年)に制定されました。
石油の備蓄を確保するための措置を講じることにより、石油の供給が不足する事態が生じた場合において石油の安定的な供給を確保することを目的としています。
石油の備蓄の確保等に関する法律
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、石油の備蓄を確保するとともに、備蓄に係る石油の適切な供給を図るための措置を講ずることにより、我が国への石油の供給が不足する事態及び我が国における災害の発生により国内の特定の地域への石油の供給が不足する事態が生じた場合において石油の安定的な供給を確保し、もつて国民生活の安定と国民経済の円滑な運営に資することを目的とする。
(国の施策)
第三条 国は、我が国への石油の供給が不足する事態及び我が国における災害の発生により国内の特定の地域への石油の供給が不足する事態に備えて行う備蓄(以下単に「備蓄」という。)並びに備蓄に係る石油の適切な供給が、これらの事態が生じた場合における国民生活の安定と国民経済の円滑な運営の確保に欠くことのできないものであることに鑑み、石油の貯蔵施設についての保安の確保に配意しつつこの法律による石油の備蓄の円滑化及び備蓄に係る石油の適切な供給を図るための施策を講ずるとともに、石油の備蓄の確保及び備蓄に係る石油の適切な供給の必要性について国民の理解を深めるよう努めなければならない。
備蓄石油の放出
備蓄した石油は簡単には放出できません。
石油備蓄はオイルショックがきっかけでできた制度です。
石油の放出は、中東情勢の悪化や災害時にガソリンなどの供給不足の恐れがある場合に限定されています。
ガソリンの価格が上がったから石油を放出しようというのは法律の建て前からすればできないことになっています。
石油備蓄を取り崩した事例
2011年3月11日
東日本大震災が発生しました。
緊急対応として民間備蓄義務を初動段階で3日分、追加的に22日分引き下げたました。
2019年9月14日
サウジアラビアの石油施設が攻撃を受けて炎上し、国際的な石油の供給体制に不安が生じました。
翌15日にアメリカのトランプ大統領は戦略石油備蓄の放出を認可したと発表したことを受け、日本も必要に応じて国際機関・各国と協調して石油備蓄を放出する方針を打ち出しました。